このリグは1988年5月に完成し、私がHFのQRP運用に興味を持つきっかけを作ったトランシーバーです。製作年の1988年はサイクル22がちょうど始まりかけた頃でした。製作当初は約2Wくらいの出力でしたので、国内の近場とコンタクトできれば上出来と考えていました。ところが本人の意志に反して、国内はもちろんのこと、近場の外国局(HL,BYなど)とコンタクトが出来、当の本人は予想外の結果に大喜びをしたものです。そうこうしているうちに、サイクル22によりコンディションが上がってきて、オーストラリア(VK)まで届いたり、ヨーロッパの局をコールしたらコンタクトできるなど、だんだん遠距離局(DX)とのコンタクトができるようになりはじめました。
私自身もDX=ハイパワーと考えていましたので、当初は信じられない気持ちで一杯でしたが、次々とDXコンタクトができ、どうやらコンディション次第ではQRPでもDXコンタクトが可能であるという結論に達しました。
正面操作パネル配置(正面パネルの配置関係の説明)
上の左の写真は1988年6月当時の写真です。当時のSSBジェネレーターは下図のような熊本シティースタンダードの原典の回路を使用していました。また右の写真は、AGC回路およびSメーター回路を変更し、さらに復変調回路にSN76514を使用したSSBジェネレーターに取り替えたNO1号機です。
上の右の写真はNO1号機を斜め上から撮ったものです。左側にスピーカー、真ん中の上部が周波数のディジタル表示器、左下のツマミが音量調整用ボリューム、その右側のツマミは1KHZ以下の周波数調整用(±1KHZ可変可)、右上がSメーター、その下がマイクジャックです。
周波数の可変は、トランシーバー本体の押しボタンスイッチ(黒および赤)か、マイクに付属のアップダウンボタンスイッチを使ってアップダウンするようにしています。ケースはいかにも自作ですといった感じの、俗に言う弁当箱スタイルで作っています。
上面の基板配置関係について(SSBジェネレーター基板ほか)
NO1号機は、ケースの中心部分に上下を仕切るアルミ板を入れ、上下両面にそれぞれ各回路基板を配置しています。上の右側の写真がNO1号機を側面から撮影したもので、上下に基板が配置されている状態を見ることが出来ます。
また、左上の写真はリグを真上から撮影したものです。左側の縦長の基板が終段パワーアンプ回路基板です。ドライブ段のトランジスターに2SC2086、終段には2SC2166を使用し、無調整ワイドタイプアンプで最大出力は2Wです。
中央部分の正方形の基板がSSBジェネレーター回路基板で、製作当初はJA6BI、田縁OMの考案された「熊本シィテースタンダード」(送受信の変復調回路にリングダイオードを使用したタイプ)通りの回路で作っていました。
しばらくは原型の「熊本シィテースタンダード」タイプのジェネレーターを使用していましたが、送受信とも動作上で少し気になるところがありましたので、その後その部分を改良した下図の回路のものに取り替えました。
また、右端の縦長の基板はトランスバーター回路基板で、11.275MHZのSSBジェネレーター出力と、32MHZ台の局発出力をヘテロダインし目的の21MHZの信号作り上げています。
裏面(下面)に配置している基板について
(PLL局発回路関係の説明)
上の写真は、裏(下)面側を撮ったものです。左上の穴あき基板は周波数表示用LEDのドライバー回路です。
上側の中央の小さな基板は、アップダウンのパルスを発生するパルスジェネレータ回路基板です。マイクまたは本体の押しボタンスイッチを押すと、クロックパルスと アップダウンの制御信号が出力します。
具体的動作では、アップまたはダウンボタンを押すと、約0.8秒位のタイミングで周波数がアップダウンします。また押しボタンスイッチを押したままにすると、約5秒位で自動的に早送り状態になるように作っています。
右端の縦長の金属ケースはPLLユニットです。これはもともとCB無線機用として作られたPLLユニットで、内部のヘテロダイン用水晶を取り替え、出力周波数が32MHZ台になるよう改造して使用しています。
下側の中央に配置している大きな基板がアップダウンカウンター基板です。2進アップダウンカウンター2コと、10進のアップダウンカウンター4コを使用しています。
2コの2進カウンター(4516)はPLL回路を制御し、10進カウンター(40192)の最初の1桁目は、1KHZステップの周波数を作るためのD/A変換と、周波数カウント用に使用しています。残りの10進カウンター(40192)3コは、周波数カウント用とカウントレベル合わせ用にそれぞれ使用しています。
10KHZステップPLLの1KHZステップ化について
ここで使用したジャンクのPLLユニットは1ステップ10KHZで周波数が可変します。FMトランシーバー用ですとこれで十分ですが、SSB用としては周波数が10KHZ間隔でしか出力されませんので、実際運用では使用できない周波数が発生し使用に耐えません。そのような訳で、このジャンクPLLユニットをSSB用として使用するには、何らかの方法で10KHZステップを1KHZステップに変更するとともに、さらに1KHZ以下の微調整ができるような付加回路が必要になります。
このNO1号機では、下図の方法で1ステップ1KHZ化を実現しています。
概要図の通り、最下段の10進カウンター40192のBCD出力は、LEDに数字を出力させるためのLEDドライバー5022の入力に接続されるとともに、BCD/10LINEデコーダー5028の入力にも接続されています。
今、40192のBCD出力が0(0000)の時、当然のことながらLEDは0表示をします。この時5028の出力は、10LINE出力の0の端子に8V(ほぼICの電源電圧)が出力します。この出力された電圧は1KHZ設定VRに接続されていますので、このVRを調整することにより、PLLユニットのVXO回路のバリキャップにかかる電圧が可変でき、結果としてヘテロダイン用水晶の発信周波数を動かすことが出来ます。
運用周波数21.000MHZの時に必要な局発周波数は、32.275MHZ(11.275+21.000=32.275)ですので、周波数表示が000の時32.275MHZになるようVRで周波数を合わせます。
ここでは単純に32.275MHZになるように調整と書いていますが、実際にはPLLを制御する2進カウンター4516のプリセット機能を利用した補正(加算)をしています。ここでは1KHZステップ化の説明をしていますので、4516のプリセット機能の説明は省略します。
さて肝心の1KHZ設定の話の続きですが、1桁目が1つ繰り上がって40192のBCD出力が1(0001)になった時は、LEDの表示は当然1を表示します。それと同時に、5028の出力は先ほどの0の端子の電圧が0Vになり、代わりに1の端子に8Vが出力します。ここでこの出力に接続されているVRでPLL出力周波数が32.276MHZになるように調整します。
以下カウントが上がるたびに、対応する周波数になるように各VRを調整すると、カウントが上がるにつれて1KHZステップで周波数が可変することになります。
もちろん調整するVRは全部で10コで、裏(下)面を撮影した写真のアップダウン回路基板の下の方に、横一列に並んでいる10コの白い丸いものがその調整VRです。
以上で1号機に関する説明は終わります。本来ならアップダウンカウンターの回路図とプリントパターン図をお見せすべきですが、何せ約10年位前の作品で資料を探しましたが見つかりませんでした。今時ジャンクPLLユニットを改造して使うような時代でもありませんし、古きよき時代の作品と思って下さい。