前作のNO1号機は局発にPLL回路を使用しているとはいうものの、ジャンクのCB用PLLを改造して使用しており、厳密にいえばオール自作の状態ではありませんでした。そこでPLL回路も含めて完全自作化をはかるため、1992年にこのNO4号機を製作しました。
※下記の各写真は、写真上をクリックするとそれぞれ拡大して見ることができます。
回 路 構 成
NO4号機は上記ブロックダイアグラムの通り9MHZのメーカー製のクリスタルフイルターを使用しています。このため必要となる局発周波数は30MHZ台となり、この30MHZ台を得るための局発MIX回路を組み込んでいます。また、周波数のアップダウン制御を、押しボタン操作およびダイアル操作のどちらも出来るようにしたり、出力電力を7mW〜3Wまで連続的に可変できるなど、少々凝った内容の自作機になっています。
以下、各回路の概要説明と写真および回路図などを順に紹介します。
SSBジェネレーター回路
SSBジェネレーターは、当初NO1号機と同じく変復調ICにテキサス社のSN76514を使用した回路で作っていましたが、1995年6月に現在のNE612のものに取り替えました。フイルターは市販の9MHZのジャンクフイルターを使用しています。
トランスバーター回路
SSBジェネレーターからの9MHZの信号を、目的の21MHZに変換するのがこのトランスバーター回路です。このトランスバーター回路には、局発として必要な30MHZ台を作るための局発MIX回路が入っています。
具体的にはTA7320がこの局発MIXの働きをしています。IC内蔵の発振回路で作った24MHZと、PLL回路からの6MHZ台のPLL出力とをMIXし、目的の30MHZ台の局発出力を作り上げています。
また、PLL回路の6MHZ台は1KHZステップでしか周波数が可変しません。このため1KHZ以下の周波数調整ができる何らかの回路が必要になります。これについては、24MHZの水晶をVXOし±500HZの可変が出来るように作っています。
P L L 回 路
PLL回路は過去何度か試作してみましたが、いずれも周波数のロック幅が狭く満足のいく結果は得られませんでした。当時はPLL回路用のワンチップ専用ICはまだ発売されておらず、複数のICを組み合わせて作る必要がありました。
下の写真はその時代の試作品です。この回路では、基準発振及びその分周IC(TC5082P)、位相比較IC(TC5081AP)、分周IC(TC9122P)の3個のICを組み合わせて作っています。
右下の写真はプリントパターン側で、ロック幅を少しでも広くとるためにVCOコイルやコンデンサーなどを仮付けし、悪戦苦闘しているところです。
古いタイプのPLL回路の試作基板
ところがこのPLL回路についてもワンチップ化と高速化が進み、現在はこの4号機で使用しているMC145163など、基準発振およびその分周回路、位相比較回路、分周回路など、PLL回路として必要な回路が入ったワンチップICが発売されています。
そこでこの新しいPLLワンチップICMC145163を使って作ってみることにしました。
ちょうどその頃モービルハム誌に、JE1UCI局(冨川寿夫氏)が設計されたPLL回路の記事が掲載されていました。
前にも述べましたように、ロック幅を広く取ることで散々苦労した当局は、この回路定数でとりあえず実験してみることにしました。結果は驚くほど広帯域でロックし、なんと最大で19MHZ近くものロック幅が得られました。
この回路は安定度も非常に良く、以後最新のNO6までずっとこの回路を採用しています。JE1UCI局(冨川寿夫氏)が設計されたものは発想がユニークで、PLL回路以外でも非常に参考になり、わたしの自作無線設備の各所で使わせていただいています。
アップダウンカウンター回路
ここで使用したアップダウンカウンター回路は、一般的に使われている標準回路です。プリセット機能付きの10進カウンター(4510)を3桁分と、それに接続されるLEDドライバー(5022)を3個使用しています。
このリグでCW運用をすることはありませんので、カウンターICのプリセット機能を利用し、100KHZ台のカウンターに「1」、また10KHZ台のカウンターに「5」をそれぞれプリセット設定しています。これにより電源オンにすると運用周波数のスタート値が21.150MHZになります。21.150MHZ以下にはダイアルのダウン操作で下げることができます。
また、21.450MHZでリセットがかかるように設定しています。これにより21.150MHZからスタートし21.450MHZでリセットがかかり21.150MHZに戻ります。この設定はお遊びでしたもので、何も設定をしないとスタート値は通常の21.000MHZから始まり、21.999KHZの次のステップで21.000MHZに戻ります。
終段パワーアンプ回路
NO4号機の終段パワーアンプは、当初はNO1と同じ回路で終段トランジスターに2SC1971を使用して作っていました。ところがこの2SC1971は、もともと175MHZ帯用のパワートランジスターで、わたしの作り方がまずかったのか時々セルフを起こしていました。
このため、遮断周波数(ft)の低いトランジスターならセルフは起きないだろうという姑息な考えで、ゲインがあって遮断周波数の低い2SC1957を選択しました。
ところが、2SC1971と2SC1957は足の配置が全く違い、結果として部品取付図の通り2SC1957のベースとコレクターをクロスして結線する羽目になりました。
このセルフ問題は、毎回自作機の測定と技術的アドバイスをしていただいている菊地OM(JA1HWO)から、ベース回路にフェライトビーズを入れているため、ベースのインピーダンス高くなりセルフを起こしやすくなっているとのコメントをいただいています。
パワー調整回路
この4号機では出力を7mWからフルパワーの3Wまで連続的に可変できるようにしています。 音量調整ボリュームに2連ボリュームを使用し、外側のツマミで出力パワーの調整ができるようにしています。これについては、運用途中でパワー調整をする際の目安として、あらかじめ正面パネル板に0.1W、0.5W、1W、1.5W、2Wの目印をつけています。左に一杯絞り込むと7mW、右一杯に回しきると3Wのフルパワーになります。
下記にパワー調整の具体的回路や出力電力の測定方法などを書いています。なおこの資料は7mWでコンタクトしていただいた相手局にQSLカードと一緒に送っている資料です。
出力7mWでのコンタクト実績
下の表は、夏のEスポ時に最初はフルパワーの3Wでコールし、だんだんパワーを絞り込み、最終的に出力7mWで交信できたコンタクトリストです。当時実験に快くご協力いただいたこの各局に、この場をお借りしお礼を申し上げます
交信年月日 相手局 JST hisRS myRS 1995.7.02 JA9FDD 14:47 5.9+ 5.2 1995.7.05 JI4UOH 11:55 5.9+ 5.2 1995.7.05 JI1WLL 12:43 5.9+ 5.2 1995.7.08 JA0QEV 18:58 5.9+ 5.1 1995.7.09 JA7YAA 09:24 5.9+ 5.2 1995.7.13 JA8BXD 15:00 5.9+ 5.3 1995.7.14 JA1SLA 11:26 5.9+ 5.1 1995.7.14 JA0MJ 14:02 5.9+ 5.2 1995.7.15 JE4TRE 10:15 5.9+ 5.3
押しボタンパルス発生回路
このNO4は最初はNO1号機と同じくアップダウンボタンだけで周波数の可変操作をしていました。この押しボタンだけによる周波数のアップダウンも、それで慣れていたせいか不自然さは感じませんでした。
ところが1993年にNO5号機が完成し、ダイアル(エンコーダー)操作に慣れてくると、押しボタンだけの操作では物足らなくなり、1994年3月にダイアルによる周波数可変も同時に出来るように改造しました。
この押しボタンパルス発生回路は、NO1号機の説明でも書いていますように、アップまたはダウンボタンを押すと約0.8秒間隔で周波数が可変し、ボタンを押したままににすると約5秒後位から自動早送り動作をします。
ダイアルパルス発生およびパルス切替回路
前項で書いておりますように、押しボタン操作とダイアル操作の両方が出来るようにしたのがこの回路です。
この回路には、ダイアルエンコーダーを使用してパルスを発生させる回路と、押しボタン回路とダイアルエンコーダー回路を切り替えるためのスイッチ回路が入っています。
これにより周波数のアップダウンは、通常のメーカー製のトランシーバーと同じように、押しボタンまたはダイアルのどちらでも操作することができます。
NO5号機への発展
この4号機が完成した時点でふと思いました。フイルターにメーカー製9MHZのものを使用したため、局発が30MHZ台になり局発MIX回路が必要になった。
6MHZのPLL出力がそのまま使えれば、回路の大幅な簡素化が出来るのではないか。そのためにはフイルターを15MHZにすれば良い…………。
凝り性な当局は、またまた次の課題に向かって設計を開始してしまいました。【 NO5号機コーナーに続く! 】